その時の私に、この本を読ませたい!
それが本書「科学者はなぜ神を信じるのか」です。
究極の文系(?)哲学・神学は、数学・科学と密接な関係があるとされます。多くの人の説明にもありますし、事実すぐれた偉人の科学者は哲学・神学と通じています。なくとなく分かるようで、腑に落ちない、そんな気持ちをずっと持っていました。この本はキリスト教的な考え方の基本から、科学の解き明かしが「神の存在」と矛盾しないとする考え方について、丁寧に、しかし分かりやすい言葉で述べています。そして、カトリックだとかプロテスタントだとかいうような宗教的な意味合いよりも、宇宙、私たちの力を越えたなんらかの法則性に対する憧れのようなものを喚起させてくれます。
何よりも、こんな文系人間の私も物理学の造詣が深くなりました!ニュートンも、マクスウェルも、めちゃくちゃ楽しいですやん♪(5章以降は、読むのに大変な時間はかかりましたが)寺田寅彦もそうですが、すぐれた学者はすぐれたストーリーテラーでもあります。「物理学」という人の思考の織り成す歴史物語は、複雑を単純化したがゆえに理解しづらかったものを、丁寧に解きほぐしてくれます。
4〜5章までは、高校生でも習う方程式や理論について、分かりやすく説明されているのみならず、その発見の過程と発見後の発展まで興味深く述べていますから、物理の突破口を見つけたい人には本当におすすめできます。また、6、7章の宇宙物理学については、よく聞くけれども難しいしよくわからないと思っている人におすすめ。ミクロよりも小さな原子の世界と宇宙のつながりが見えてきます。ホーキング博士の虚時間宇宙などよくわからないところもありますが(そもそも私は虚数がよくわかっていない)、十分好奇心を刺激し、より知りたくなること間違いありません。
テーマである「神」についても、現実に起きている宗教的な対立を乗り越えて、私たちが共に生きる指針をくれるようなものとして、最後には理解されてきます。コミュニティの知恵としての「宗教」とは異なる「宇宙」的な運命やルールをつかさどる「神」(いわゆる、スピノザ的神)を理解する方法(あくまでも理解、著者は聖職者ではありますが、押し付けて来る感じは全くありません)を教えてくれます。そして、尊大な気持ちにならず、「人間」として素直で謙虚な気持ちにもさせてくれます。
最近大学受験用の良著「ちくま科学評論選」を見通しても思ったことですが、科学論が持ち上がると同時に、現代の思想・思考を理解するには哲学的な素養は現代人に必須です。哲学はアプリケーションのようなもので、それを取り入れるといろいろなものを理解したり実用化したりできるようになります。実際、私は大学受験予定者には必ず一定期間、哲学的な思考方法を学ぶ練習をしてもらっています。その後の伸びが飛躍的に向上するからです。
この本では、そうした哲学的な思考法もテーマとして存在しています。もちろん、哲学自体の専門書ではありませんが、哲学の使い方、使われ方もかじることができますよ。
というわけで、大学受験を目指す人には特に、お勧めします。
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